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淡路大歳と姫路麦本~播州 絹常 出身 刺繍職人との関わり~

2018.09.29

以前、(2017年6月)の新着情報で掲載いたしました、淡路島のだんじり業者『大歳』と兵庫県高砂市の戎町の高欄掛けを制作した『麦本』との関係ですが、その後の調査と高欄掛けの解体作業時に判明した詳細をご報告致します。

 

※『大歳』……淡路島のだんじり業者、元々は造り酒屋でしたが、大工職人や飾金具職人、刺繍職人を呼び寄せて、だんじりの製造を一手に引き受けていました。明治時代には、島内の刺繍の名工「小泉久吉氏」も大歳と組んで数多くの作品を制作していました。戦後、大歳は、播州の「絹常」で働いていた刺繍職人を数名招いて、四国系の刺繍を意識し、絹常流の御殿の入った純金縫い潰しの飾り幕をいくつも制作しています。

 

※『麦本』……元々の家業は大工で、いつから屋台業を始めたか定かではありませんが、かつては自前で飾金具職人、刺繍職人を抱えていました。多くの刺繍職人が出入りしていた為、年代によって、刺繍の作風が異なっています。昭和8年頃までは、一世を風靡され数多くの屋台を制作されていましたが、戦争の影響で、職人が少なくなり仕事も減少し、戦後から昭和20年後半には 屋台業を辞められたそうです。

 

 

 

DSCN9849水引幕

※先日、兵庫県淡路市室津の里組様からお預かりした水引幕です。本作品は、津名郡生穂町 (現・淡路市生穂)の『大歳』が制作したもので、制作年代は昭和28年。図柄の題材は『大坂夏の陣乃図』です。

 

DSCN9844

左・「真田幸村」 右・「真田の家来」

 

DSCN9843

左・「徳川の家来」 右・「徳川家康」

 

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「龍頭」

 

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「大坂城」

 

 

※そして こちらが戎町様からお預かりしています退治物の高欄掛けです。本作品は、姫路 白濱区(現・白浜町)の『麦本』が制作したもので、昭和58年頃、麦本は既に廃業していましたが在庫で所有していたものを購入されたそうです。制作年代は不明です。

龍

「六孫王経基、龍退治乃図」

 

とら

「加藤清正、虎退治乃図」

 

鷲

「隠岐次郎左衛門、怪鳥退治乃図」

 

鯉

「西塔鬼若丸、鯉退治乃図」

 

 

 

※この水引幕と高欄掛けはそれぞれ別の業者(大歳・麦本)が制作したものです。しかし全体的な図柄の雰囲気、刺繍の縫い方、技法が、非常に酷似している箇所がいくつもあります。特に高欄掛けは、絹常風なのですが、所々に絹常には無い、淡路の浮きもの刺繍を意識した技法が使われている事に着目いたしました。

①人物衣装の「馬簾」 『大歳製』↴

DSCN9834

 

『麦本製』↴

DSCN8807

 

 

 

 

②鎧の「しころ」…下地の和紙を黒く塗りつぶした後、和紙が少し見えるように山型に切り、黒い縁取りに見えるようにしています。

『大歳製』↴

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『麦本製』↴

DSCN8779麦本

 

 

 

 

③陣羽織の「乳」 『大歳製』↴

DSCN9833

 

『麦本製』↴

DSCN8718清正

 

 

 

 

④人物衣装の「柄」 『大歳製』↴

DSCN9835

『麦本製』↴

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⑤人物衣装の「梵天」…毛糸を束ねて丸く切ったものが使われています。 『大歳製』↴

DSCN9829

『麦本製』↴

DSCN7872六孫王梵天

 

 

 

 

⑥刺繍の張り出し「枕」…立体感を出すために、非常に高い枕で張り出しを表現しています。 『大歳製』(丸金で刺繍)↴

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『麦本製』(撚金で刺繍)↴

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⑦人物の「目張り」その他 巻き付けなど…目張りの先、かすかに墨で黒く塗られているのがわかります。  『大歳製』↴

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『麦本製』↴

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※麦本製の高欄掛けを分解した際、中から制作当時に入れられたと思われる新聞紙が出てきました。(古刺繍の内部に入っている新聞紙などは、制作年代の特定やその他貴重な情報となります。)↴

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DSCN9854

関西汽船のストライキの記事です。昭和26年7月14日、阪神-洲本航路と書かれています。おそらく淡路島か阪神(大阪、神戸)に配られていた新聞と思われます。高欄掛けの制作年代は『昭和26年頃』と推測されます。

 

これらの事と各地区の調査から判明した淡路大歳製刺繍(後期)の流れと播州絹常出身刺繍職人との関わりと年表をまとめます。

 

 

 

◎淡路市一宮町「下河合」……『水引幕・昼提灯』昭和23年~25年製➔➔➔<推測>刺繍は島外の※絹常出身の職人?へ発注。

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◎南あわじ市榎列「下幡多」……『水引幕・昼提灯』昭和26年~27年製➔➔➔<推測>この頃、※絹常出身の刺繍職人4名が、淡路に移住。大歳に住み込みで働き始める。その職人達が淡路で制作した初めての作品が「下幡多(しもはた)」の布団だんじりの刺繍と思われる。

※主に仕事を仕切っていた方は、女性の刺繍職人だと伺いました。(大歳談より)

※絹常にはかつて「コズエ」という非常に腕の立つ女性の職人がおられたそうです。大歳に来た職人と同一人物かはわかりませんが、気になるところです。

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◎高砂市「戎町」……『高欄掛け』昭和26年~28年頃製➔➔➔<推測>姫路の麦本が淡路の大歳に発注。上記の刺繍職人が淡路の大歳で制作したと思われる。

◆高欄掛けの内部から(昭和28年7月14日発行)関西汽船ストライキ(阪神~洲本航路)の新聞記事が出てくる。

◆大歳製の刺繍技法と非常に酷似している。(・人物の衣装。 ・各部分の縫い方、癖。 ・淡路の浮きもの刺繍技法など。)

戎町が昭和58年に麦本より購入したので、約30年間、麦本が所有していたと推測されます。

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◎淡路市室津「里組」……『水引幕・昼提灯』昭和28年製

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◎南あわじ市榎列「西川」……『水引幕・昼提灯』昭和29年製

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◎南あわじ市北阿万「伊賀野」……『水引幕』昭和30年製➔➔➔<推測>伊賀野の仕事の終わってから しばらくして、絹常出身の刺繍職人が、大歳を退職。同時に大歳は、自社での刺繍製造のみを廃業。上記の刺繍職人が制作した昼提灯(徳川家四景)を在庫として所有していたと思われる。

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◎淡路市富島「中之町」……『水引幕・昼提灯』昭和33年製➔➔➔<推測>◆水引幕は、大歳が須磨の「細川」へ発注。(南あわじ市の伊賀野と同じ図柄であるが作風が全く違う。細川の刺繍と酷似。)

※昼提灯(徳川家四景)在庫を購入。

 

 

以上で調査結果のご報告を終わります。

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